
1949年と言えば毛沢東率いる中国共産党が南京を制圧し、中華人民共和国を建国した年のこと。愛媛宇和海沿岸に大量のネズミが発生するという騒動が起こった。
北緯33度東経132度、宇和島港沖合いの戸島にあったトウモロコシ畑を壊滅に追い込んだドブネズミたちはその勢いにのって南下政策をとり、農作物、水産加工物を食い荒らしながら、10年後には四国本土の宇和島市内にまで勢力を拡大した。
おどろいたのは市民達。慌ててその対策のため、北宇和郡野鼠撲滅委員会、ついで宇和今海岸地方鼠族駆除対策委員会を結成し、パチンコやネズミ捕りで増加するネズミ達に抵抗した。しかし極度に増えたネズミたちにはあまりにも弱い対策でしかなく、凶暴化したネズミたちはそのうち人間の赤ん坊に噛み付くという事件までおこすようになっていった。
委員会は、ネズミを退治して、その尾を持ってきた人には奨励金を出すという、一種の懸賞金までかけてネズミの駆除に力を入れる。が、大量化したネズミ軍の中にあって微力な人間の力など焼け石に水で、ほとんど効果はあがらなく、市民達は途方に暮れるだけであった。
そんな騒ぎのさなか、「ネズミにはやはり猫であろう」と一人の老人が言った。
昔から猫はネズミの天敵であった。
島の漁民達はかつて、その猫たちを商売品のイリコを食べる悪いやつだと島から追い出してきた経緯がある。
また、島の農民達は農業の効率化を図り、付近の山々にあった自然林を開拓し、山頂までも段々畑に変えてしまった。そのため、自然が極端に少なくなり、ネズミにとっての天敵、蛇やイタチなどもそれに伴って少なくなるという現象もおこっていた。
「猫様に謝るんじゃ。猫様を粗末にした罰がこんな形となって現れたんじゃ」
老人の声に、困り果てていた市民達は反省し、藁にもすがる思いで猫に頼ることを決め、その日のうちに全国の猫たちに招集の広告を発行することにした。
「四国、宇和海近郊に勇敢な猫募集中。待遇は三食昼寝付き。ノルマは一日ネズミ三匹。腕に自信のある猫大歓迎」
あるものはレストランの裏で残飯をあさっているとき仲間の口からその話を聞き、あるものは朝の集会で古寺の境内に集まったとき長老からその話を聞き、・・・猫たちはおのおのに考えた。
飼い猫は家を捨てるわけにはいかないが、あぶれものの猫たちはどのみち行く宛もない。
「今まで野良猫、どら猫と周りの人たちから蔑まれ、肩身の狭い思いをしてきたが、ようやっと己の行くべき道が決まった」とじっと宙を睨む。
「さてはオレたちの時代の到来か?」「今こそ己の力を試す時ぞ」と。
日本全国津々浦々のあぶれ猫たちは南へ南へ、小躍りしながら駆け出す。その数、実に4392匹。
ちなみに蛇が191匹、イタチが156頭、三食昼寝付きにつられてやってきて、猫とともに戦ったが、これはおまけの話。
いいだしっぺの老人は、集まった猫たちを宇和島市立三間小学校に整列させ、その猫達の中でも最も恰幅のいい一匹を選んで総大将に据えて、そしてその総大将猫の指揮のもと出陣式をあげた。
「にゃいにゃいニャー」と雄叫びをあげて、猫たちは己の魂を鼓舞し、「Go!」の合図を聞くや否や、瞬く間に全島に散らばった。あるものは早速五匹ものネズミを召し捕り、またあるものはネズミの巣を見つけ勢い良く飛びかかる。
老人は「これでよいようになるじゃろう」と鼠族駆除対策委員会の面々に向かって頷き、委員会の面々も頼もしげに猫たちを見やった。
ところが、二日三日と過ぎるうち、猫の数が目に見えて減っていき、やがて一週間もすると島内に猫たちの姿がほとんど見かけられなくなった。
老人は首を傾げる。「これは変だぞ? さては猫ども、いつもの怠け癖がでてしまい、ネズミ捕りそっちのけで眠りこけているのではないかしらん」
自分が言い出した猫投入作戦だっただけに、老人は少し慌てて島中を歩き回って調査をする。
すると、なんと猫たちはあちこちに散らばってゴロゴロ死んでいるではないか。
猫たちの死体を司法解剖にまわしたところ、胃より致死量をはるかに上回るフラトールが摘出され、哀れ猫たちはネズミ捕りの毒にやられたのだとわかった。
ネズミたちは10年もの間、人間の作った毒の撒き餌を食べるうち、徐々にその毒にすら慣れてしまったのに対し、猫たちはまったくその抗体を持たなかったため、その毒入りの餌を食べたネズミを食べて死んでしまったのだ。
中には死んだ後その肉をネズミにかじられてボロボロになっている猫さえいた。
老人は哀れな猫たちの亡骸をかき集め、抱きかかえて泣いた。海辺の一箇所にかき集め、火葬して墓に埋めた。
猫たちを倒したネズミ軍はますます意気盛んに作物を喰い荒らす。
とどまる所を知らぬネズミの暴威に市民たちは、「これはいよいよ島を捨て、皆でどこか揃って流浪の民になるしかあるまい」と相談し、己の境遇の哀れさに泣いた。
目先の利益のみに気を取られ、無計画な開発を押し進めてきた自分たちの愚かさを呪った。
猫投入の作戦をたてた老人は、悲しみに打ち拉がれて一人寂しく死んだ。
もう町に未来はないと、皆が思った。
と、そこに一人の青年がやって来る、とくれば後はお馴染みの英雄譚。
東京都港区のダスキン木村、石井一右店長と彼の率いる害虫駆除のプロフェッショナル、ターミニックスご一党。
さてさてどうやってこの凶悪なるネズミどもを退治するのやら。
後は次回のお楽しみ。チャンチャン
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